
全世界においてモバイルペイメントの普及が進む中、依然として現金主義が根強い日本では、モバイルペイメントを含むキャッシュレスの決済比率はわずか18~20%といわれています。
2020年開催予定のオリンピック・パラリンピック、インバウンドの増加なども影響し、
ここへきて日本においても官民ともに、モバイルペイメント普及の動きが活発化している中、新たな決済スキームであるQRコード決済が注目されています。
先日のLINE CONFERENCE2018では、国内でのキャッシュレス・ウォレットレス化を進めるためのコード決済普及施策及び「LINE Pay 店舗用アプリ」の提供が発表され、さらにヤフーはYahooアプリのスマホ決済サービスのリリースを開始しました。
また、業界最安値の決済手数料を実現したpringや、実店舗をもたないイベント利用も可能なpixiv PAYなど特色あるサービスも提供されています。
今回は、日本におけるモバイルペイメントの現状と普及のための課題、注目のQRコード決済のしくみやサービス、最新動向についてまとめてみたいと思います。
日本におけるキャッシュレス決済の現状
2018年4月に経済産業省が発表したキャッシュレス・ビジョンによると、2015年時点での世界各国のモバイルペイメントを含むキャッシュレス決済比率の比較を行うと、キャッシュレスが進展している国では 40%~60%台であるのに対し、日本では18.4%にとどまっていることがわかります。
そうした状況を踏まえて、政府は「支払い方改革宣言」においてキャッシュレス決済比率を、2025年までに40%程度に引き上げることを目指し、将来的には世界最高水準の80%まで引き上げることを発表しています。
キャッシュレス決済の種類と課題
キャッシュレス決済とは「物理的な現金(紙幣・硬貨)を使用しない支払い手段」のことをいいます。例えば、クレジットカードやデビットカード、Felicaをベースにした決済インフラによる電子マネー(交通系ICカードやWAON、Edyなど)、スマートフォンを活用したQRコード決済やNFC決済(非接触技術を使ったモバイル決済)などがこれにあたります。
キャッシュレス決済の普及には社会的な情勢に加えて、インフラの整備など,対応する店舗の拡大、ユーザーエクスペリエンスの改善と様々な要因が関連します。
日本におけるキャッシュレス決済の普及、中でもモバイルペイメントをすすめる上で、外的要因としてハードルとなっているものは以下があげられます。
店舗におけるコストやキャッシュフロー
- 支払い端末の導入コスト、加盟店手数料などのコストに加えて、現金化までのタイムラグが発生するなど、店舗の負担が大きい。
インバウンドに対応できるインフラの整備
- 日本国内で利用可能な非接触決済サービスのFelicaはType-F方式であり、海外で主流のType-A/B(ISO 14443)が利用できるところはほとんどない。
キャッシュレス決済の手段の多様化とそれによる弊害
- 現金以外の決済方法が乱立し、消費者にとってわかりにくい。自分が望む決済手段がすべての小売店で対応しているわけではない。小売店によって対応する決済手段にばらつきがある。
そんな中、モバイルペイメント普及につながる決済方法の一つとしてQRコード決済が注目されています。
QRコード決済とは?
QRコード決済とはモバイルペイメントの一つで、店舗での支払いの際、スマートフォンでQRコードを読み取ることで決済を行うものです。
LINE Payや楽天Pay、Alipay や WeChat Pay 等がサービスの提供をしています。
QRコード決済の二つの方式
現在、QRコード決済には以下の2つの方式があります。
①「コード支払い」
- 決済時にユーザーがアプリにバーコードを表示し、POS端末で読み取る。
- 主に販売時点情報管理(POS)端末を導入済の店舗での決済方法。
- 「コード支払い」に対応させるためにPOS端末改修が必要だが、認証・決済フローは従来のクレジットカードとほぼ同じ。
②「読み取り支払い」
- 決済時にユーザーが店舗固有のQRコードをアプリで読み取り、購入金額を入力することで決済を行う。
- 店舗は専用の端末を用意する必要がなく通信回線も不要であるため導入コストがかからない。これまでモバイルペイメントに対応していなかった店舗でも導入しやすい。
- 中国、インド、東南アジアで普及しているQRコード決済とほぼ同様。
日本国内の主なQRコード決済提供サービス
LINE Pay(LINE株式会社)
LINEが提供するお財布サービス。スマホだけでチャージから、加盟店での買物、送金や割り勘が可能。LINEのアカウントをベースとしていることが強みで、単なるウォレット機能だけでなく、店舗と友だちになることでその後、決済を起点とした顧客サイクルを形成することが可能。
- 加盟店手数料:
・「LINE Pay 店舗用アプリ(後述)」を介した加盟店申請、決済分: 2.45% 2018年8月から3年間手数料無料
・その他導入(POS改修、その他決済端末、QR掲示型):物販 3.45% デジタルコンテンツ 5.5%(※手数料無料対象外) - 決済方式:コード支払い〇・読み取り支払い:△(※読み取り支払いについては社員食堂やカフェ、イベント会場でのキッチンカー、お弁当販売などにて展開)
- URL:https://line.me/ja/pay
楽天ペイ(楽天株式会社)
楽天会員IDを利用して、楽天以外のECサイト及び実店舗でも簡単に決済ができるサービス。楽天グループ外のサイトであっても楽天IDを利用した決済を利用することによって楽天スーパーポイントが貯まり、そのポイントを楽天ペイとして使用で可能。
- 加盟店手数料:3.24%もしくは3.72%(利用するカードによって異なる)
- 決済方式:コード支払い〇・読み取り支払い:〇
- URL:https://pay.rakuten.co.jp/
ヤフースマホ決済(ヤフー株式会社)
2018年6月5日よりスタートした「Yahoo!ウォレット」の新機能、バーコード決済サービス。実店舗でもYahoo!ウォレットに登録したクレジットカードや、Yahoo!マネーで支払いができ、支払いに応じてTポイントをためることができる。
- 加盟店手数料:今秋導入予定の「読み取り支払い」は3年間手数料無料を予定
- 決済方式:コード支払い〇・読み取り支払い:✖(※但し2018年秋導入予定)
- URL:https://wallet.yahoo.co.jp/guide/payment/
Origami(株式会社Origami)
(※2020年6月30日メルペイにサービス統合されました)
国内でいち早くQRコード決済を提供。
ポイント制はないが、クーポンの発行や店舗ごと割引サービスがある。
インバウンド決済「Alipay」の導入プランあり。
- 加盟店手数料:最大 3.25%
- 決済方式:コード支払い✖・読み取り支払い:〇
d払い(株式会社NTTドコモ)
オンライン及びオフラインでの決済に利用できるスマホ決済サービス。利用に応じてdポイントをためたり、使用したりすることができる。
お支払い方法は「電話料金合算払い」と「クレジットカード」から選べるほか、「ドコモ口座」と「dポイント」残高からの充当も可。
ドコモの回線をもっていなくてもdアカウントがあれば利用可能。
- 加盟店手数料:調査中
- 決済方式:コード支払い〇・読み取り支払い:✖
- URL:https://service.smt.docomo.ne.jp/keitai_payment/
PAY ID(PAY株式会社ーBASE子会社)
Eコマースプラットフォーム「BASE」を開設している店舗が利用できるBASE経由による導入(中小規模店舗向け)と、APIを経由して自社システムに決済サービスを組み込むPAY.JP利用(大規模店舗向け)による導入の2通りの方法がある。
- 加盟店手数料:PAY.JP経由:1.5%−3.0%(契約プランによって変動)、BASE経由:2.9%
- 決済方式:コード支払い✖・読み取り支払い:〇
- URL:https://id.pay.jp/
paymo(AnyPay株式会社)※2020年3月31日サービス終了
割り勘アプリ。QRコード決済にも対応。個人や小規模店舗が手軽に導入しやすい。
- スタンダード:取引手数料2.95%
ライト:30日毎に決済額5万円まで無料、超過分については5% - 決済方式:コード支払い✖・読み取り支払い:〇
pring(株式会社pringーメタップス子会社)
お金コミュニケーションアプリ。
クレジットカードではなく銀行口座と直接紐づけて決済することで業界最安値の決済手数料を実現。
- 加盟店手数料:0.95%
- 決済方式:コード支払い〇・読み取り支払い:〇
- URL:https://www.pring.jp/
pixiv PAY(ピクシブ株式会社)
同人誌即売会などのイベントで、スマホを利用したQRコードや現金での決済・レジ機能を実現。当アプリに特徴的な「アシスタント機能」では、複数人でレジ画面を安全に共有できるため、複数人での販売が可能になる。
実店舗をもたない、例えばフェスなどの期間限定のイベントでの利用や、法人かつ事前審査が必要なサービスを利用できないケースであっても、QRコード決済を導入できるため、”だれでも・どこでも”導入できるという点で注目。
- 加盟店手数料:3.6% 2018年8月まで無料
- 決済方式:コード支払い✖・読み取り支払い:〇
- URL:https://pay.pixiv.net/
ゆうちょ Pay(株式会社ゆうちょ銀行)
2019年2月目途に提供予定のスマホ決済サービス。
ゆうちょ銀行の口座を持つ「個人ユーザー」が、契約店舗での決済時、QRコードを読み取ることで、予め登録した銀行口座から代金を即時に引き落とすサービス。
- 加盟店手数料:未定
- 決済方式:コード支払い:調査中・読み取り支払い:〇
- URL:https://www.jp-bank.japanpost.jp/aboutus/press/2018/abt_prs_id001326.html
主なQRコード決済サービスの決済手数料及び決済方式まとめ
海外のQRコード決済サービス概要
中国では、現金の安全性、透明性や現金にかかるコストといった社会的な課題が後押しする形で、WeChat PayやAlipayなどのキャッシュレスサービスの普及が大きく進んでいます。また、中国人観光客のインバウンドに対応し日本で利用できる店舗も増加しています。
WeChat PayやAlipayは中国国内でのサービス提供において特徴的なのは以下の点です。
(参考:平成30年4月 経済産業省 キャッシュレスビジョン(pdf)より)
①加盟店手数料が廉価
加盟店手数料が廉価で、利用できる店舗の裾野をひろげ露天のような店舗でも利用できる点です。
例えば、Alipayは、中国国内の加盟店手数料を業種によって区分し、社会インフラとしての役割を担う医療、教育、社会福祉、介護等では 0%、その他の業種においても最高で 0.55%に設定されています。
②生活に欠かせないアプリ
単なる決済アプリではなく、生活サービス、金融サービスやコミュニケーションツールとの連携により生活にかかせないアプリを提供し、キャッシュレスを起点に新しいビジネスモデルを構築しています。
例えば、Alipayアプリでは、タクシーやホテル予約、映画チケットの購入、公共料金など各種支払、病院の予約、振込みや資産運用商品の購入、友人への送金・割り勘など様々なサービスを直接行うことが可能です。
③ビッグデータのビジネス活用
ショッピング取引情報や支払い記録などの膨大な利用履歴からなるビッグデータをビジネス活用することで新たな価値を生み出しています。
例えば、Alipayグループの芝麻信用社(Sesame Credit)は、EC大手淘宝網(タオバオ)等でのネットショッピングの取引情報や支払い情報などの個人の大量データを収集し、個人の信用スコアをAIで算出し、ビジネス化しています。
個人の信用スコアに応じて、ホテル予約でのデポジットが不要になったり、ビザの申請、ローン審査や金利への影響、採用現場において参考にするケース等が増えています。
WeChat Pay
“中国最大人気のコミュニケーションツールWeChat(微信)(提供会社:Tencent(テンセント・騰訊))が提供するモバイル決済サービス。
AliPay(銀聯)
ネットショップモール「淘宝網(タオバオ)」を運営するアリババ集団(阿里巴巴集団)の決済サービス。
QRコード決済のメリット
機種に依存することなく、多くのインバウンドに対応
同じモバイルペイメントであるGoogle Pay・Apple Pay・おサイフケータイなどと異なり、機種に依存せずに、アプリをダウンロードすれば大半の機種で利用することができます。
日本においてはLINEや楽天など幅広いユーザーをカバーできることに加え、主に中国人観光客のインバウンド需要に対応することができます。
店舗の導入コスト、運用コストが低廉化し、加盟店が拡大
導入する店舗においても専用端末を用意する必要がないため導入コストや支払手数料、インフラコストを低廉化することができるため、導入ハードルを下げ、結果として、利用できる店舗が拡大し、ユーザーメリットにもつながります。
アカウントベースによる決済サービスで新たな価値を創造
アカウントをベースとしているため、実店舗だけでなくオンラインにおいても、同一の決済サービスを提供することができます。また、会員IDに紐づいた支払い情報や利用データを蓄積することで、ポイントシステムの提供や顧客一人ひとりに最適なコミュニケーションなど、決済の枠にとらわれない新たな価値を生み出すことができます。
QRコード決済の最新動向
LINEのコード決済普及施策と「LINE Pay 店舗用アプリ」
2018年6月22日に開催された「LINE CONFERENCE 2018」では、本年中に、スマートフォンおよびLINE Payで支払い可能な箇所を国内100万箇所まで拡大することを目標に掲げ、モバイル送金・決済サービス「LINE Pay」において、国内でのキャッシュレス・ウォレットレス化を進めるためのコード決済普及施策が発表されました。当施策には「LINE Pay 店舗用アプリ」の 提供などが盛り込まれています。
「LINE Pay 店舗用アプリ」は、アプリをダウンロードすることでコード決済を導入することができるため、中小規模の店舗をはじめとする事業者がより気軽にコード決済を導入することができます。さらに、2018年8月からの3年間「LINE Pay 店舗用アプリ」の決済手数料が無料化されることからこれまで、手数料負担がネックとなり導入を見合わせていた店舗への導入が進みそうです。
Yahoo!アプリのスマホ決済サービスがリリース
ヤフーは4月の決算説明会で、2018年度は「モバイルペイメント」に注力する方針を発表しました。
また、2018年6月5日より、「Yahoo!ウォレット」の新機能としてバーコード決済サービス「コード支払い」の提供が開始されました。これによりバーコードを使った実店舗でのスマホ決済が可能になります。
対象のお店でQRコードやバーコードを提示するだけで、Yahoo!ウォレットに登録したクレジットカードや、Yahoo!マネーで支払いができ、支払いに応じてTポイントをためることができます。
今秋には買い物をするユーザーがYahoo! JAPANアプリ店舗のQRコードを読み取って決済する「読み取り支払い」の提供も予定しているとのことで、この「読み取り支払い」に関しては向こう3年間決済手数料を無料にすることが報じられています。
- ヤフーアプリで支払う(QR・バーコード支払い)とは – Yahoo!ウォレット
- ヤフーアプリのスマホ決済サービスがリリース!――モバイルペイメントが変えるキャッシュレス社会とは? – linotice* | Yahoo! JAPAN RECRUITMENT
- ヤフーも「決済手数料ゼロ」 QRコード支払いで──日経報道(追記) – Engadget 日本版
メタップス、QRコード決済手数料を業界最安値の「0.95%」に
2018年6月27日、オンライン決済事業を手がけるメタップスは、グループ会社が提供するウォレットアプリ「pring(プリン)」を通じたQRコード決済手数料を業界最安値(※1)の「0.95%」に設定し、加盟店募集を開始しました。(※1但しLINE Payが報じた期間限定0円を除く)
通常1%程度と言われている現金管理のコストを下回る「0.95%」を決済手数料として設定することで業種や事業規模を問わず、キャッシュレス化を導入したいより多くの店舗からの利用をすすめる意向です。
尚、当初は、法人かつ実店舗での決済を条件としていますが、今後、オンライン決済、及び個人事業主についても展開予定とのことです。
経済産業省、QRコードを使った決済の規格統一化へ
2018年2月27日付日本経済新聞によると、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、みずほ銀行の3つのメガバンクが連携して、QRコードの決済規格を統一し、共同でシステムを開発することで合意したことが発表されました。
さらに、2018年6月7日の日本経済新聞によると、規格が分かれたままでのQRコード決済の普及は、消費者や小売店の利便性を損ねるとの判断から経済産業省はQRコードを使った決済の規格統一に乗り出すとのことです。
大手銀行にヤフーや楽天などを加えた協議会を立ち上げ、年内にも統一に向けた行動指針をつくる方針とのことで、官民で標準化が検討されます。
[2018年7月20日追記:お詫びと訂正]
PAY IDの運営会社をBASE株式会社からPAY株式会社に修正させていただきました。訂正してお詫び申し上げます。
[2018年8月29日追記:お詫びと訂正]
LINE Payが提供するQRコード決済サービスの内容に一部誤りがございました。訂正してお詫び申し上げます。
(執筆:松元)
※QRコードはデンソーウェーブの登録商標です
[2020年9月7日更新]
2020年3月31日 paymo bizサービス終了のため、リンク先を削除しました。